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日本外科学会からのお知らせ「新たな地域医療構想に対する外科からの提言」に関して

[2024.9.20]

日本外科学会が「新たな地域医療構想に対する外科からの提言」に関して発表した。

 

厚生労働省医政局に提言書「新たな地域医療構想に対する外科からの提言」を提出いたしました。

 

I はじめに
平素より日本外科学会の活動にご理解、ご賛同いただき、誠に有難うございます。
この度、2040 年頃を見据えた新たな地域医療構想について検討されていると聞き及び、外科医療を担っている立場から以下の3点についてご議論を深めていただきたく意見を述べさせていただきます。

① 外科医不足の現状認識について
② 高難度外科医療の集約化と外科的 common disease 医療の均てん化について
③ 非外科領域医療の担い手としての外科医師の業務過多について

 

II 日本外科学会からの要望内容
① 外科医不足の現状認識について
これまで弊学会では設立以来 120 年間にわたり全国どこでも質の高い外科医療を提供することができるよう外科医の育成、環境整備に尽力して参りました。この間世界的に見ても本邦の外科手術レベルは高水準を維持し、新しい外科治療の発展にも寄与してきたと自負しております。

近年、免疫治療など様々な分野で新しい薬物療法が発展していますが、癌、臓器移植などの高難度手術に加え腸閉塞や急性胆嚢炎などの急性期医療でも外科手術でしか治せない、そして中には緊急を要する手術が依然として多く存在します。

その一方、現在の弊学会の最大の課題は、若手医師の外科離れです。2018 年から一般社団法人日本専 門医機構による新しい専門医養成が始まりましたが、発足当初の 2018 年の基本領域総専攻医数 8410 名のうち外科専攻医は 805 名(9.6%)であり、2024 年は 807 名(8.5%)でした。

数字だけを見ると横ばいですが、新しい医学部の発足や医学部定員数増加に伴い総専攻医数は 9454 名と 2018 年に比べ 12.4%増加しており、他領域の専攻医数がのきなみ上昇している反面、外科専攻医数のみが増加していません。また弊学会会員で 50 歳未満の医師が占める割合は 2014 年の 50.6%から 2023 年は 43.9%と減少し高齢化が進んでいます。さらに、日本消化器外科学会では 10 年後の消化器外科医数は現在の 4 分の 3 に減少し、20 年後には半分に減るという試算を明らかにしています。このような深刻化する外科医不足の現状をふまえ、今後の議論の土台にしていただきたく希望いたします。

 

② 高難度外科医療の集約化と外科的 common disease 医療の均てん化について
 貴検討会でも議論されているように、本邦では中長期的に人口は減少し、高齢化、生産年齢人口が減少することが予測されていますが、高齢化がすすめば外科医療のニーズは高まることが予想されます。また、大都市、地方都市、過疎地域ではそれぞれ地域ごとに人口動態が変わってきますので、それぞれの地域の類型、体系に合わせた対応が求められることになろうかと思います。外科医療を提供する立場とすれば、今後は、これらの人口動態変化を適切にみきわめ、地域のニーズにあわせた外科診療施設の集約化が必要と考えております。上で述べましたように、外科を志す若手医師が減少するとともに医師の働き方改革により外科医療従事者は相対的に減少また高齢化しており、地域医療を担う現役外科医師の負担は増すばかりです。その一方、高齢化社会に伴う外科医療ニーズの増加に対応し、効率的で質の高い外科医療サービスを提供し続けるためにも外科医を含めた医療リソースがしっかりと整備された病院を地域のニーズをふまえ適切に配置する必要があります。
膵腫瘍に対する代表的な術式である膵頭十二指腸切除(PD)は腹部手術の中でも高難度手術として位置づけられています。近年、膵腫瘍の早期発見・診断にともない、この PD 実施件数は右肩上がりに増加していますが、学会の報告によればこのような高難度手術は施設毎の症例数が多いほど術後合併症や術後死亡が少ないことが報告されています。2011 年日本肝胆膵外科学会では厳しい審査基準で知られる肝胆膵外科高度技能専門医制度を設立しましたが、その発足以来本邦の高難度肝胆膵外科手術の術後死亡率は低減してきました。このような事例からも人口減少、高齢化、生産年齢人口減少にともない、やはり一定以上の難度を伴う外科手術は high volume center に集約化していくべきと考えられます。一方、急性虫垂炎、急性胆嚢炎、腸閉塞など、いわゆる外科領域における common disease については医療アクセスに制限がかかるような集約化は好ましくありません。国民が安心して地域に暮らせる最優先の条件は緊急時における医療アクセスです。すなわち、緊急手術と高難度待機手術とでは異なる外科医療供給体制が必要であり、外科的治療が必要な患者に対して適材適所な医療を提供できる体制を構築するためにも、人口減少、高齢化予測をもとに、外科的 common disease を担う急性期外科医療の均てん化と待機的高難度外科医療のバランスをとったきめ細やかな地域医療構想が整備されることを希望いたします。これらの施策を実現可能とするためにも、弊学会としては外科医療従事者の確保に努めてまいります。若手外科医を増加させるためにあらゆる機会を通じて日本外科学会をはじめ外科系医学会および外科診療施設においてその魅力を伝えるための活動を行ってまいりますので、貴検討会では高難度外科医療の集約化とともに common disease 急性期医療の両者に対する診療報酬の改善など、その魅力を実現できるような方策についても是非ご議論いただけましたら幸いです。

 

③ 非外科領域医療の担い手としての外科医師の業務過多について
 また、外科の立場からみて大きな課題として挙げられるのが外科医の非外科領域における診療実態です。現在の地域医療においては、特に地方都市や過疎地域では、手術のみならず、救急医療、化学療法、終末期医療、検診業務、ICU 管理など多くの非外科診療を外科医師が担っています。内科医、整形外科医が配置されていない地域病院において外科医が内科的救急疾患や骨折などに当たり前のように対応している現状があります。このような実情は各種統計調査報告では表面化し難く、これまで大きな課題として認識されてきませんでした。すなわち、人口統計から割り出された必要手術数のみを基準として外科医師配備計画を検討することは地域医療の実情を反映しません。さらに、医療の高度化や社会情勢の変化に伴い医療行為の説明や多くの書類作成など医師の周辺業務は増すばかりの状況にあります。これらの対策として看護師や放射線技師、事務補助者へのタスクシフト・タスクシェア整備がうたわれていますが、消費税・光熱費などの高騰に伴う病院経営難や労働人口不足のため人材確保は進まず、地域医療を担っている外科医の負担は増すばかりです。外科診療の集約化および均てん化計画には、あわせて外科医療従事者の診療内容の適正化およびサポート体制強化が必須であることを強調したいと思います。特に今後は手術の第一線から退いた高齢外科医にも、外科医が全身を診る診療領域であることの特長をいかして、手術や非手術の領域でそれらを支援する立場で働いてもらうための環境整備を進めることも、外科医が減少する中で外科医療を持続可能にするための方策であると考え、ご議論をお願いいたします。また、インターネット環境を使用した遠隔医療の推進や医療コンサルテーションの環境整備など AI や DX を活用した医療改革推進が、外科医療を含めた最適な地域医療の充実に欠かせないと考えられますので、是非ご議論ください。

 

III おわりに
 これまで策定された地域医療構想をもとに病院の統合・再編が議論されてきましたが、多くの地域では実行にまで至っていないのが現状です。おそらく病院の設立母体および各診療科間の意識の差が集約化を阻む大きな障害となっているのではないかと推察いたします。是非、行政が主導権をもって地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる将来の地域医療の方向性を示していただきますよう、よろしくお願いいたします。

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