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スペシャルインタビュー「チャンスがあるなら、積極的に外へ出て学ぶべき」東京都保健医療公社 豊島病院」眼科医長の武田淳史先生のインタビュー

[2017.9.4]

東京都保健医療公社 豊島病院」眼科医長の武田淳史先生のインタビューを掲載しました。

 

チャンスがあるなら、積極的に外へ出て学ぶべき

日本眼科学会眼科専門医として、穿孔性眼外傷や、術後眼内炎など数多くの手術に携わり、現在も増殖硝子体網膜症や、難治性網膜剥離など高度な医療に取り組む公益財団法人 東京都保健医療公社 豊島病院 眼科医長の武田淳史先生。
難症例の手術をこなす一方で、患者さんとのコミュニケーションや後輩医師への指導など、人との関わりにも重点を置き医療に取り組む武田先生に、これまでの経歴や今後の医師としての目標を伺った。

 

【工学部から医学部への転身】

 武田先生が医師を志したのは、工学部の学生だった大学3年生の時。
そこから、大学を休学し医学部を目指す。人生の大きな転機はどこにあったのだろう。
「高校時代は物理に興味があり、宇宙開発関係の仕事に漠然とした憧れを抱いていました。大学は一旦、名古屋大学工学部の物理工学コースに進学したのですが、自分が物理工学に抱いていたイメージと異なり、講義の内容のほとんどが数学だったんです。そこで改めて「一生かけて学びたい学問とは何だろう?」と進路を考えなおすことにしました。
中学生の頃にNHKスペシャルで『驚異の小宇宙 人体』シリーズを観ていたこともあり、医学にも興味がありました。幼少時から「人間が人間自身の身体の中のことを完全に解明することは不可能ではないだろうか?」という疑問を持っていたことも、宇宙と同じく医学に惹かれたきっかけですね。そこで親とも相談し、大学3年の夏に休学し、半年間予備校に通い医学部を受験しなおしたんです」
平成11年4月に近畿大学医学部に改めて入学し、医学への道を歩みはじめた武田先生。その後は、東京都保険医療公社 大久保病院にて初期臨床研修を行う。
「自分が何科に進むべきなのかをすごく迷いました。
昔から手先は器用で、プラモデルなども好きだったので、外科系の医師になることは学生時代から決めていましたが、そこから先は散々悩んだんです。外科系と言っても、外科(一般外科)、脳外科、心臓外科、形成外科、眼科などいろいろありますからね。特に外科は『メスよ輝け!』という漫画の影響もあり、高校生の頃からの憧れがありました。また大久保病院の外科に当時おられた小出綾希先生という、今でも僕が大変敬愛してやまないスーパードクターな先生に、ほぼ毎日「お前は外科だ、お前は外科だ」と言われ続けて、最後まで外科か他科か決めることができませんでした。
ただ、外科医というのは肉体的にとても大変な道です。高齢になってからも第一線で手術をし続けるのはなかなか難しい。僕自身、1年間浪人して大学に入り、3年間工学部に通ったため、他の人よりもスタートが4年遅れています。かつ、大学時代にテニスを頑張りすぎて腰痛持ちなので、長時間立ちっぱなしの手術は困難でした。
眼科は、学生時代には全く考えていなかった道でしたが、実際に眼科手術の内容を知るととてもおもしろいのです。例えば、網膜剥離の手術一つとっても『網膜剥離の原因となっている孔を、眼球外から-80℃の液体窒素ガスで冷凍凝固させ、網膜の下に溜まった液体を針を刺して抜き、眼球外からシリコンバンドを巻いて孔を内外から圧迫、さらに眼球内に膨張率を計算した上でフッ素ガスを入れ、その後患者さんがうつ伏せ姿勢を保持することで治癒する』など、最初に知った時は驚愕しました。よくもまあこんな方法を先人は考えたなあと。
また外科での開腹手術などは、麻酔科医や複数の助手など、数人の医師がチームワークで行いますが、眼科の手術では殆どが局所麻酔で執刀医も1人です。顕微鏡下でのmicro surgeryで、とても緻密な手術であり、結果は患者さんの見え方に直結するため誤魔化しは効かず、一人の術者の腕ひとつにかかっています。そして何より患者さんは、今まで見えなかった眼が見えるようになると本当に喜ぶのです。とても厳格そうなおじいさんが術後、外来で喜びのあまりにポロポロと泣かれたりすることもあります。一番眼科に魅力を感じたのはこの点ですね。
そして散々悩んだ結果、恩師の小出先生にすみませんと頭を下げ、研修医2年目の春、新入局員締切ギリギリの3月に大学病院の眼科の門を叩きました」

 

【地方病院は、若手医師のチャンスの場】

 順天堂大学医学部眼科に入局した武田先生。

「僕の場合、本院時代から網膜硝子体グループに所属していました。眼科の中でも網膜硝子体系は特に体育会系男子が集まる領域です。当時のグループ長は武井正人先生で、座右の銘は『男は黙ってビトレクトミー(硝子体手術)』という、バリバリ体育会系の厳しい先生でしたが、僕が日々の忙しい下仕事の中、手術をしたそうにあまりにも悶々としていたのを見るに見かねて、全くの手術初心者である僕に網膜剥離手術(バックル手術)を縫合ひとつから根気よく指導してくださいました。眼科医歴から考えると特例中の特例なので、武井先生にはとても感謝しています。
硝子体手術の最近の技術躍進により、近年なかなかバックル手術はその適応が限られ、経験を積みにくい手術ではありますが、白内障手術における嚢外・嚢内摘出術と同様に、必要時に出来ないと困る手術であります。網膜剥離手術の礎はこの時に築きました」
その後、武田先生は2年間の本院勤務後、順天堂大学静岡病院へと出向することになる。
「平成17年4月、伊豆半島にある順天堂大学静岡病院へ行きました。
静岡病院は、伊豆半島の救急患者が全て集まる場所です。例えば外傷で眼が破裂してしまったような患者さんも来ます。地方の、特に田舎の病院はなかなか行きたがらない人も多いのですが、若い医者が手術経験を積む場として非常に良いと思います。僕自身、静岡病院では難しい症例を数多く経験し、しかもなかなか都内では若手医師には経験させてもらえないような手術もさせてもらいました。そこでは太田俊彦教授のもとで、白内障手術から硝子体手術まで幅広く手術を学んだのですが、太田教授は「まず後輩に手術をさせる。後輩が失敗しても自分がちゃんとリカバリーする。そうやってまずはやらせてみて、できたなら、さらに難しい手術でもチャンスを与える」というスタンスの先生でした。
僕も何度か、自分の手術を大失敗して「どうしようどうしよう」と肝を冷やし、その度にきっちりと太田教授に治していただき、ホッと胸をなで下ろしたことがあります。リカバリー手術の間、助手として自分の手術の後処理を直に見ている時は生きた心地はしませんでしたが、そこでリカバリーの仕方も学びました。僕は静岡病院に3年間程いたのですが、専門医もまだ取らないうちから相当数の白内障手術、網膜硝子体手術を経験させていただきました。
僕の眼科手術の礎となった武井先生と太田教授のスタンスは、僕の中で今も後輩の指導に際し生きています。若い駆け出しの外科系医師にとって、手術を例え部分的に少しでも触らせてもらえた、というのはとても大きな経験になります。若手の頃はほとんど医者らしいことが何もできないまま、理不尽な下仕事や雑用ばかりに夜遅くまで追われる日々が続きます。しかしそんな潰れそうな毎日でも、例え縫合一つだけでも先輩に「やってみる?」とチャンスがもらえただけで、明日からまた頑張れるのが外科系の医師です。
未経験のままただ助手に付いているよりも、実際の手術操作を少しでも早く経験しておくだけで、「自分ができなかった所、苦労した所を、上手い先生達はどのように工夫しているのか」がわかり、圧倒的に手術を見る目が養われます。自分が身に染みてそれを体験してきたので、なるべく後輩には早い段階から手術のチャンスを与えてあげようと意識しています。ただ、『後輩の手術を指導するということがどれほど責任者である自分に対してプレッシャーになることなのか』については、後に身を持って知ることにはなりましたが……。
やっぱり、医者といっても人間ですし、結婚し家庭を持つと、なかなか自分の思い通りのタイミングで遠隔地の病院に出て経験を積むことは難しくなってきます。地方でも、海外でもいいですが、少しでもチャンスがあるなら、若いうちに外へ出て行くべきだと思います。チャンスは逃さない方がいいですね」
順天堂静岡病院での経験が、難症例の手術をいくつもこなす武田先生の医師としての大きな基盤となっている。地方病院には、若手医師のチャンスが転がっているといえそうだ。

 

【一人常勤を行う豊島病院】

 眼科医としての腕を研鑽し、静岡から東京に戻ってきた武田先生。現在は、一人常勤として豊島病院にて眼科医長を勤めている。
「平成23年10月から豊島病院で勤務しています。前任者の退職に伴い、僕が出向することになりました。さらなる眼科医療の拡充の為に、硝子体手術器械や網膜の断層画像の器械など、病院に交渉して医療機器を追加購入してもらう所からはじめました。現在は、機器も随分充実し、高度な眼科医療を行うことができます。手術件数も年々症例数が増え、難症例に対する硝子体手術も行っており、紹介患者さんも増えていますね」
手術件数も増えているという武田先生に、一週間のスケジュールを伺ってみた。
「月・水・金は外来日で、火曜は手術です。手術日には、大学から出向している後輩の医局員に指導などをしています。だいたい手術は1日に白内障を10件程度、網膜硝子体手術も2~4件程度、緊急手術も昼夜問わず行っていますね。木曜日は、静岡県の伊豆半島の南の方にある伊豆今井浜病院に外勤に行っています」
病院こそ違うものの、今でも週一日は静岡県に通っている武田先生。
遠方から先生の腕を頼り、東京まで手術を受けに来る人もいるとのこと。武田先生の人気の高さがうかがえる。

 

【プライベートの充実が、良い医療に繋がる】

 「自分が手術した患者さんは、基本的に家族同様だと思っています」と、話す武田先生に、人生の目標についても伺ってみた。

「夢というか希望ですが、僕が死ぬ時には、僕の家族から『僕の妻で良かった』、『僕の子どもで良かった』って思われて死にたい。僕の人生設計はそこから逆算して考えるようにしています。
仕事のために、家族を犠牲にする医師もいます。医師としての職務上、それはある程度やむを得ないことだと思いますが、医師も人間なので、自分自身が人生に満足していないと患者さんにゆとりを持って接することは中々難しい。家庭でトラブルを抱えながら、患者さんの前で最大のパフォーマンスはできないですよね。なるべく楽しい気持ちで病院に向かえるように、日々意識しています」
家族を大事するだけでなく、趣味のテニスや、ジャズピアノ、ベースにも力を入れる武田先生。まだ2人のお子さんは小さいそうだが、いつか家族4人でテニスをしたり、ジャズバンドを組むのが夢だそう。プライベートの充実が、良い医療にもつながっている。その人間性の高さも患者さんから慕われるポイントのようだ。

 

【更なる拡充を目指して】

 最後に、医師としての今後の目標を伺った。
「豊島病院での生活は充実しています。
自身の手術技術を充分に活かせる場でもありますし、顕微鏡や、白内障手術・硝子体手術の最新機器など、高額な医療機器も購入していただいて、予算的なバックアップもあります。手術室には眼科専属ナースもいますし、外来には僕専属の医療秘書もいて、とても優秀で僕の仕事の穴を埋めてくれるので大変助かっています。正直、ここでの仕事に何も不満はないですね。なじみの患者さんも多いですし、病院内でのテニスサークルや外科系医師での定例飲み会などもあり、他の科の先生ともコミュニケーションはとりやすい。
ですから、ここでもっと眼科医療を拡充していくのが当面の目標ですね。部下が入ってもう少し活気ある眼科になればいいですね。若い医師にもなるべく手術の機会を与えて、もう少し育てていければと思います。
また眼科医も外科医である以上、常に自身の技術の向上を意識すべきだと思っています。その為に常にアンテナを張り巡らし、学会などにはなるべく参加するようにしています。趣味のテニスを軸にして、眼科に限らず、他大学の医師とも積極的に交流を持つようにしています。月に一度はそんなテニスの会を後輩と一緒に主催していて、メンバーはとうとう50人を超えました。自分が専門外のことで何かあった時に、気軽に頼れる仲間がいるのはとても心強いですね」
後進の医師の指導にも意欲的な武田先生。豊島病院での更なる発展が大いに期待できる。
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